APS-Cセンサーのカメラにフルサイズレンズを装着してみたいと考えたことはありませんか。高画質な写真が撮れるかもしれないという期待がある一方で、本当に失敗や後悔なく使えるのか、様々な疑問が浮かぶことでしょう。
この記事では、APS-Cにフルサイズレンズを組み合わせる際の基本的な知識から、具体的な活用方法までを網羅的に解説します。APS-Cにフルサイズレンズを使うメリットはもちろん、APS-Cでの焦点距離の変化や、気になるボケ量と画質の違いについても詳しく掘り下げていきます。
また、フルサイズレンズとAPS-Cレンズの違いを理解した上で、周辺光量落ちとケラレの有無、フルサイズレンズの重さと携帯性がもたらす影響、そして専用レンズとのコストパフォーマンスの比較も行います。さらに、動画撮影での利点と注意点にも触れながら、おすすめのフルサイズレンズ活用方法や、将来的なAPS-Cからフルサイズへのステップアップの考え方まで、あなたの疑問に明確な答えを提示します。
この記事を最後まで読めば、あなたの撮影スタイルにとって、この組み合わせが本当に最適な選択なのかを自信を持って判断できるようになります。
- フルサイズレンズをAPS-C機で使う際の光学的な変化
- 撮影ジャンルごとに異なるメリットとデメリット
- コストや携帯性を含めた実践的な判断基準
- 将来の機材選びに役立つステップアップの考え方
APS-Cにフルサイズレンズを使う基礎知識

この章では、APS-Cセンサーのカメラでフルサイズ用レンズを使用する際に知っておくべき、光学的な基本原理と特性について解説します。
- フルサイズとAPS-Cレンズの基本的な違い
- APS-Cで変わるレンズの焦点距離
- 周辺光量落ちとケラレは発生するのか
- APS-Cにフルサイズレンズを使うメリット
- 気になるボケ量と画質の違いを解説
- フルサイズレンズの重さと携帯性の課題
フルサイズとAPS-Cレンズの基本的な違い

フルサイズレンズとAPS-Cレンズの最も根本的な違いは、レンズが作り出す光の円、すなわち「イメージサークル」の大きさにあります。
レンズはカメラのセンサーに向かって円形の像を投影しており、センサーはその円の一部を四角く切り取って写真を記録します。フルサイズレンズは、約36×24mmの大きなフルサイズセンサー全体をカバーできるように、大きなイメージサークルを設計されています。一方、APS-Cレンズは、それより小さいAPS-Cセンサー(約23.6×15.8mmなど)をカバーするだけでよいため、より小さなイメージサークルで設計可能です。
この設計思想の違いが、レンズ自体のサイズや重さ、そして価格に直接的な影響を与えます。大きなイメージサークルを作るためには、より大きなレンズ素子が必要となるため、フルサイズレンズはAPS-C専用レンズに比べて大きく、重く、高価になる傾向があります。この違いを理解することが、両者を組み合わせた際の特性を把握する第一歩となります。
変わるレンズの焦点距離
APS-Cセンサーのカメラにフルサイズレンズを装着すると、レンズに記載されている焦点距離よりも望遠側で撮影しているかのような効果が得られます。これは「クロップファクター」と呼ばれる現象によるものです。
APS-Cセンサーはフルサイズセンサーよりも小さいため、レンズが投影するイメージサークルの中心部分だけを切り取って(クロップして)使います。これにより、写る範囲が狭まり、結果的に被写体が拡大されたように見えます。この画角の変化は、レンズの焦点距離に特定の倍率(キヤノンは約1.6倍、その他メーカーは約1.5倍)を掛けることで、フルサイズセンサーで撮影した場合の画角に換算できます。
例えば、焦点距離50mmのレンズを1.5倍クロップのAPS-Cカメラで使うと、フルサイズカメラで75mmのレンズを使った時とほぼ同じ画角になります。ただし、これはあくまで写る範囲(画角)が変わるだけで、レンズ自体の光学的な特性、例えば遠近感の圧縮効果などが変化するわけではありません。
レンズ焦点距離 (mm) | 35mm判換算画角 (1.5倍クロップ) | 35mm判換算画角 (1.6倍クロップ) |
16mm | 24mm相当 | 25.6mm相当 |
35mm | 52.5mm相当 | 56mm相当 |
50mm | 75mm相当 | 80mm相当 |
85mm | 127.5mm相当 | 136mm相当 |
200mm | 300mm相当 | 320mm相当 |
400mm | 600mm相当 | 640mm相当 |
周辺光量落ちとケラレは発生するのか

結論から言うと、APS-Cカメラにフルサイズレンズを使用した場合、原理的に周辺光量落ちやケラレ(画像の四隅が暗く欠ける現象)は発生しません。
前述の通り、フルサイズレンズは大きなフルサイズセンサーを隅々までカバーする、広大なイメージサークルを投影します。APS-Cセンサーは、そのイメージサークルの中心にある、余裕を持った部分だけを使用することになります。
レンズの画質は一般的にイメージサークルの中心部が最も高く、周辺部に向かうにつれて性能が低下し、周辺光量落ちや歪みが発生しやすくなります。APS-Cセンサーは、画質が低下しやすい周辺部分を物理的に使わないため、ケラレや周辺光量落ちの心配がほとんどないのです。これは、フルサイズレンズをAPS-Cで使う際の大きな光学的利点の一つと考えられます。
フルサイズレンズを使うメリット

APS-Cカメラにフルサイズレンズを使う最大のメリットは、レンズの最も性能が高い「スイートスポット」だけを贅沢に使える点にあります。
レンズの解像力やシャープネスは、イメージサークルの中心部で最も高く、周辺部に行くほど低下する傾向があります。フルサイズレンズをAPS-Cカメラで使うと、イメージサークルの中心部分だけを切り取ることになるため、結果として画像の隅々までシャープでクリアな描写を得られる可能性が高まります。
特に、高品質なフルサイズレンズは、高画素なフルサイズセンサーに対応できるよう極めて高い解像力で設計されています。そのため、APS-Cセンサーで使った場合でも、その高い光学性能が存分に発揮され、一般的なAPS-C専用レンズと比較して、より繊細でディテール豊かな写真が得られることがあります。これは、画質を最優先に考えるユーザーにとって、非常に魅力的なポイントです。
気になるボケ量と画質の違いを解説

フルサイズレンズを使えばボケが大きくなる、と期待するかもしれませんが、APS-Cカメラで使う場合、ボケ量はセンサーサイズに依存します。
同じ画角とF値で撮影した場合、センサーサイズが小さいAPS-Cは、フルサイズよりも被写界深度が深くなる(ピントが合う範囲が広くなる)特性を持っています。これはフルサイズレンズを使用しても変わりません。例えば、フルサイズの85mm F1.4レンズをAPS-C機で使うと、画角は約135mm相当になりますが、被写界深度(ボケ量)はフルサイズ機での約135mm F2.1レンズを使った場合に近くなります。美しい背景ボケを得ることは可能ですが、フルサイズ機で同じレンズを使った時のような、被写体が浮き立つほどの極端なボケは得られにくくなります。
画質に関しては、前述の通り、レンズの「スイートスポット」を使えるため、シャープネスの面では有利になる可能性があります。しかし、最新の高性能なAPS-C専用レンズは、旧世代のフルサイズレンズの性能を上回ることもあります。「フルサイズ用」というだけで、必ずしも高画質が保証されるわけではない点には注意が必要です。
フルサイズレンズの重さと携帯性の課題
APS-Cにフルサイズレンズを使う上で、最も現実的なデメリットとなるのが、システムのサイズと重量です。
フルサイズレンズは、大きなイメージサークルを確保するために大型のガラス部品で構成されており、APS-C専用レンズに比べて本質的に大きく、重くなります。特に、コンパクトで軽量なAPS-Cカメラボディに、大口径のズームレンズなどを装着すると、システム全体のバランスがフロントヘビーになりがちです。
これにより、長時間の撮影では腕が疲れやすくなったり、持ち運びが億劫になったりすることが考えられます。APS-Cシステムの大きな魅力である「小型軽量・高い携帯性」という利点を損なってしまう可能性がある点は、この組み合わせを検討する上で十分に考慮すべき課題です。
APS-Cにフルサイズレンズを賢く使う方法

この章では、基礎知識を踏まえ、APS-Cとフルサイズレンズの組み合わせを、より実践的に、そして賢く活用するための具体的な方法や考え方について解説します。
- 専用レンズとのコストパフォーマンス比較
- 動画撮影における利点と注意点
- おすすめしたいフルサイズレンズ活用方法
- APS-Cからフルサイズへのステップアップ
- APS-Cにフルサイズレンズは賢い選択か
専用レンズとのコストパフォーマンス比較

フルサイズレンズは、一般的に高性能である反面、APS-C専用レンズと比較して著しく高価です。そのため、コストパフォーマンスの観点から慎重な判断が求められます。
例えば、同等の画角と明るさを持つレンズを比較すると、多くの場合、APS-C専用設計のレンズの方がはるかに手頃な価格で手に入ります。フルサイズレンズから得られる画質的なメリットが、その価格差に見合うものかどうかを検討する必要があります。
一方で、将来的にフルサイズカメラへの移行を計画している場合は、話が変わってきます。先に高品質なフルサイズレンズに投資しておくことで、ボディをアップグレードした際にレンズ資産をそのまま活かすことができます。これは「将来への投資」と捉えることができ、長期的な視点で見ればコストパフォーマンスが高い選択となる可能性も秘めています。
動画撮影における利点と注意点

動画撮影においても、APS-Cにフルサイズレンズを組み合わせることは有効な場合があります。特に、望遠効果は大きな利点となります。
静止画と同様に、焦点距離が1.5倍や1.6倍になるため、遠くの被写体を大きく撮影したい場合に役立ちます。例えば、子供の運動会や野鳥の撮影など、被写体に近づけないシチュエーションで重宝するでしょう。
ただし、注意点も存在します。オートフォーカス(AF)の挙動です。最新の純正レンズとボディの組み合わせであれば問題は少ないですが、サードパーティ製レンズやアダプターを介した古いレンズの場合、AF速度が遅くなったり、動画撮影中の追従性能が不安定になったりすることがあります。また、手ブレ補正機能もレンズとボディの協調動作がスムーズに行われるか、事前に確認しておくことが望ましいです。
おすすめしたいフルサイズレンズ活用方法
この組み合わせの特性を最大限に活かせるのは、望遠撮影が中心となるジャンルです。
最も恩恵を受けるジャンル:野生動物・スポーツ・航空機
クロップファクターによる望遠効果は、野生動物、スポーツ、航空機といった、被写体に容易に近づけない分野で絶大な威力を発揮します。例えば、400mmのフルサイズ望遠レンズが、APS-C機では600mm相当の超望遠レンズとして機能します。これにより、非常に高価で巨大な超望遠レンズを購入することなく、遠くの被写体をフレームいっぱいに捉えることが可能になります。これは妥協ではなく、到達距離を最大化するための戦略的な選択と言えます。
不向きなジャンル:広角風景・建築
逆に、この組み合わせが最も不向きなのは、広大な景色を写し撮りたい風景写真や建築写真です。16-35mmのようなフルサイズ用超広角レンズも、APS-C機では24-52.5mm相当の標準ズームレンズになってしまい、その広角性能を全く活かせません。これらのジャンルでは、APS-C専用の超広角レンズ(10-20mmなど)を選ぶことが必須となります。
APS-Cからフルサイズへのステップアップ

将来的にフルサイズセンサー搭載のカメラへ移行することを具体的に計画しているユーザーにとって、APS-C機を使いながらフルサイズレンズを揃えていくのは、非常に合理的な戦略です。
先にレンズ資産を構築しておくことで、フルサイズボディを購入した際に、すぐに高品質なレンズ群で撮影を始めることができます。ボディとレンズを同時に一式買い揃えるのは大きな経済的負担となりますが、この方法なら負担を分散させることが可能です。
ただし、この戦略が有効なのは、1~2年以内といった比較的近い将来にアップグレードする具体的な計画がある場合に限られます。もし計画が曖昧なまま、何年もAPS-C機を使い続けるのであれば、その間はバランスの悪い高価なシステムを使い続けることになりかねません。現在の撮影体験を最適化するために、高性能なAPS-C専用レンズを選ぶという選択肢も常に念頭に置いておくべきです。
APS-Cにフルサイズレンズは賢い選択か
ここまで解説してきた内容をまとめると、APS-Cにフルサイズレンズを使用することが賢い選択であるかどうかは、撮影者の目的や優先順位によって決まります。
- フルサイズレンズはAPS-Cレンズより大きなイメージサークルを持つ
- APS-C機で使うとレンズの画質が高い中心部分だけを利用できる
- 結果として画像の隅々までシャープな描写が期待できる
- 焦点距離は1.5倍または1.6倍に伸びる望遠効果がある
- この望遠効果は野生動物やスポーツ撮影で非常に有利
- 逆に広角レンズは画角が狭まり広角らしさが失われる
- 風景や建築写真にはAPS-C専用の超広角レンズが必須
- 原理的に周辺光量落ちやケラレの心配はない
- 被写界深度は深くなりフルサイズ機ほどの大きなボケは得にくい
- レンズが大きく重いためAPS-Cの携帯性を損なう可能性がある
- システム全体の重量バランスが悪化しやすい点に注意が必要
- 一般的にAPS-C専用レンズより高価でコストがかかる
- 将来フルサイズへ移行する計画があればレンズ資産への先行投資になる
- 動画撮影でも望遠効果は有効だがAF性能には注意が必要
- 最終的には撮影スタイルと将来設計に合わせた判断が鍵となる